Kahoko Tochigi
栃木 香帆子

Education
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2014.04 - 2018.03 B.S. Tokyo University of Agriculture and Technology
東京農工大学 農学部 地域生態システム学科 学士(農学) -
2018.04 - 2020.03 M.S. Tokyo University of Agriculture and Technology
東京農工大学 農学府 自然環境保全学専攻 修士(農学) -
2020.04 - 2023.09 Ph.D. Tokyo University of Agriculture and Technology
東京農工大学 連合農学研究科 環境資源共生科学専攻 博士(農学)
Work
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2023.10 - 2024.03 Postdoc Tokyo University of Agriculture and Technology
東京農工大学 産学官連携研究員 -
2023.10 - 2024.03 Research Assistant National Institute for Environmental Studies
国立環境研究所 生物多様性領域 リサーチアシスタント -
2023.11 - 2025.03 Postdoc The University of Tokyo
東京大学 先端科学技術研究センター 特任研究員 -
2025.04 - Present Postdoc National Institute for Environmental Studies
国立環境研究所 生物多様性領域 特別研究員
About My Research
ブナ科堅果類とツキノワグマ

日本の本州・四国に生息するツキノワグマ(以下、クマ)は、冬眠前に脂肪を蓄えるため、ブナやミズナラなどのドングリ(ブナ科堅果類)秋の主要な食物資源としています。これらの食物資源は豊作と凶作を数年ごとに繰り返す、結実豊凶という特徴をもっており、クマの生態に大きな影響を与えます。
私は、クマが樹上で未熟な堅果を採食する際に残す「クマ棚」という痕跡に着目し、その痕跡ができる条件を探りました。その結果、結実量が多い木を選んで登ること、凶作年にはより多くの木に登ることで、効率的に採食していることを明らかにしました(Tochigi et al. 2018 Journal of Zoology:プレスリリース)。このように、クマは食物資源の変動に応じて行動を柔軟に変える能力を持っていることがわかりました。
一方で、クマのメスは冬眠中に飲まず食わずで出産・子育てを行うため、結実豊凶が繁殖成功に影響を及ぼす可能性があります。しかし、その実態は十分に明らかになっていません。私はこの関係性に迫るため、歯の年輪幅からメスの過去の繁殖履歴を復元できる手法の確立(Tochigi et al. 2018 Mammal Study:プレスリリース)や、 長期的に蓄積された標本情報や生態学データを活用した、繁殖率や死亡率といった生活史パラメータの解明(Tochigi et al. 2023 Mammal Study:プレスリリース)を行ってきました。
最終的には、これらの知見をブナ科堅果の結実豊凶と紐づけ、繁殖成功や個体群動態にどのような影響が及ぶのかを解明することを目指しています。
森林性哺乳類による種子散布
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森林を構成する樹木は動物のように自ら移動することができないため、種子を形成し、風や水、動物などを媒介として別の場所へ散布することで子孫を残します。この「種子散布」は樹木の空間配置を決定し、将来の森林の姿を形づくる重要なプロセスです。私はその中でも、動物が果実を食べて種子を排泄することで散布を行う「被食散布」という様式に注目し、森林における哺乳類の種子散布者としての役割を研究してきました。
クマを含む複数種の中大型哺乳類を対象に、それぞれの哺乳類種がどのような環境に種子を散布するのか、そしてその役割が季節によってどのように変化するのかを明らかにしました(Tochigi et al. 2022 Global Ecology and Conservation:プレスリリース)。その結果、同じ樹種の果実を食べたとしても、哺乳類種ごとに異なる環境へ種子を散布すること、その役割が季節を通じて変化しつつも互いに補い合っていることが分かりました。複数の哺乳類が共存する日本の森では、樹木は様々な環境へ種子を運ばれる機会を得ていると考えられます。
さらに、標高勾配に沿って異なる樹種が生育しているサクラ属の分布域を対象とした研究では、受粉を担う昆虫相や果実を食べる哺乳類相が標高によって大きく変化しないこと、開花や結実のタイミングが近いことによって、花粉や種子が本来の分布境界を越えて運ばれ、その結果、樹種間で交雑が起こり、ある程度の交雑個体が維持されている可能性を示しました(Tochigi et al. 2021 Plant Species Biology)。 動物による移動は、樹木の遺伝子交流を維持することに貢献していると考えられます。
森林構造と動物の行動

森林の構造は、昆虫類や鳥類、哺乳類などの動物の分布や行動、生存に影響を及ぼす重要な要因です。構造が複雑な森林では、捕食されるのを回避したり、食物資源を利用したり、休息したりするための多様な環境(ニッチ)が形成され、より多くの動物種が利用できると考えられてきました。これまでの研究から、森林の複雑性が動物の多様性を高めることは示されてきましたが、動物がそのような複雑な森林を実際にどのように利用しているのか(移動、採食、休息などの行動)については、まだ十分に明らかになっていません。
私は現在、動物による具体的な森林利用がどのような構造的要因(倒木によって樹冠にできる隙間(ギャップ)のサイズや量、林床の枝葉の量など)と結びついているのかを調べています。さらに、日本各地の森林を対象とした全国規模の調査を進めており、森林構造が動物の多様性や行動に及ぼす影響を明らかにすることを目指しています。